第5章 練習試合と邂逅
手短にまくしたてるように、菅原と呼ばれたそいつは言った。
「今日はありがとうございました。これで失礼します」
「あ、あぁ…こちらこそ」
「じゃ、行くべ」
「引き止めてすまなかった。…またな、みなみ」
「う、うん…」
半ば強引に手を引かれていくみなみと、菅原という生徒の後ろ姿を見つめて、俺はやれやれ、と頭を掻く。
「ははっ…勘違いさせちまったかな…」
「なーに一人で笑ってるんですか」
気付くと、渡り廊下の向こうに及川が立っていた。
「及川っ…!お前、どこ行ってたんだ。さっき岩泉が探してたぞ」
「トイレに行ってただけですよ〜」
いたずらっぽい表情を浮かべて、及川は付け足す。
「…で、結局あの烏野のセンセイとはどーゆー関係だったんですか?」
「どういうって…だからただの後輩だって…」
「それにしては、廊下を通るたびにいつもあの絵を見つめてましたよね〜、熱い眼差しで」
「うっ…」
「いやぁ、気になるなぁ…!もしかしたらインハイ予選で対戦するかもしれないチームだし、ウチが勝ったらあの先生泣かせちゃうかもしんないし…。あぁ…美人だったから心が痛むなぁ〜…」
(仕方ないだろ、『別れ』なんてタイトルをつけられちゃ、嫌でも彼女を捨てた自分に自己嫌悪を覚えてしまうのだから)
俺は及川から目を逸らした。こいつと話していると、何でもかんでも見透かされている気分になる。
「…なんでそんなに首を突っ込みたがるんだよ。お前には関係ないだろ」
「だって面白そうじゃないですか。女子人気ナンバーワン教師の弱みなんて。それに…さっきの烏野の選手も関わってるっぽいし」
及川はさっき二人が去っていった方向を手をかざして見つめる素振りをした。
「うかうかしてると、あの爽やか君に横取りされちゃうかもしれないですよ?」
「お前っ、立ち聞きしてたのか!?」
「立ち聞きだなんて人聞き悪いなぁ…!“たまたま”居合わせただけですよ、ホント“たまたま”!」
「ったく…ホントにいい性格してるよな…」
「ふふん、それはどーも!」
得意げな表情で及川は笑う。
「…まぁ、アレだ。大学時代に少しだけ付き合ってたんだよ。だけど俺が勉強やら仕事やらで忙しくなって、なかなか続けらんなくなってな…。ま、自然消滅ってヤツだ」
「ふーん…」