第5章 練習試合と邂逅
会議が思ったより長引いてしまい、私は予定よりも1時間近く遅れて目的地にたどり着いた。校門そばのバス停に降り立ち、校舎を仰ぐ。
青葉城西高校。
私が3年間通った高校。教員免許の実習で一年ほど前にも訪れたけど、数年もしないうちにまたやって来ることになるなんて、なんだか不思議な気分だ。
校舎中央にある来賓用の玄関から入り、スリッパを借りて体育館へ向かう。職員室の前を通り、校長室の扉を過ぎたところに、見慣れた一枚の絵が飾られていた。
『別れ』と題された、蒼い空に数羽の白い鳩が別々の方向に飛んでいく絵ーーー
高校時代、私が美術部で描いて、入賞した絵だった。
「まだ飾ってくれてたんだ…」
お父さんが事故で亡くなった後に描いた絵だから、私にとっては少し寂しい思い出の絵。だけど、こうして何年も同じ場所に自分の絵があることは、少しだけ誇らしい気持ちにさせてくれる。
その絵にそっと触れようとした時、いきなり後ろから低い声で名前を呼ばれた。
「もしかして…みなみか…?」
驚いて、手を引っ込める。
振り返ると、スラリと背の高い男の人がこちらをじっと見つめていた。私の顔を確認した瞬間、端正な顔立ちがパッと笑顔になる。
「やっぱり…!久しぶりだな、みなみ」
「もしかして…」
私は、その人をよく知ってる。
「誠人君…?」
「はは、覚えててくれたか」
そう言いながら、少しだけ寂しそうに誠人君は笑った。
「覚えてるもなにも…どうしてここにいるの?」
「俺、今年から青城に赴任したんだ。まさかこんなとこで会うとは思わなかったよ」
「う、うん…、私も…」
私だって。
本当は、ずっと会いたいと思ってた。
顔を伏せた私に、誠人君は「おっと、悪い」と謝って半歩離れた。
「近づき過ぎるのも悪いよな」
「そんなっ、謝ることなんかじゃ…」
首を降る私に、誠人君は困り顔で笑った。
ふとした時にのぞく優しさや、育ちの良さは全然変わってなくて、私は心の中でひどく動揺してしまった。私も彼も、お互いの距離のとり方が分からないまま、戸惑っているみたいだった。