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君への5センチメートル【ハイキュー!!】

第3章 3vs3


うちは私が高校2年の時から母子家庭だ。

大粒の雪がしんしんと降る夜で、私はリビングで小学生の孝支君と二人、両親の帰りを待っていた。孝支君の家も共働きで、仕事が遅くなる日はうちで預かるというのはしょっちゅうだった。お互いそんな事情には慣れっこで、あらかじめお母さんが用意してくれた晩ごはんを二人で食べたあと、孝支君はソファに寝転んでテレビを見ていた。私はリビングのテーブルでその日の宿題をしていて、そろそろ仕事も終わるころかと時計を確認したその時、お母さんからの電話が鳴り響いたのだ。

『お父さんがね…交通事故に遭ったの…』

連絡を受けてからお母さんが帰ってくるまで、一体どんなふうに過ごしていたかは全然覚えてないのに、その時の感覚だけはリアルに身体に染み付いている。

目の前のすべての景色が、
どこかぼうっと遠くなる感覚。
どんどん冷えていく指先。
その時ずっとそばに居てくれた、
幼い孝支君の体温。

父が亡くなって以来、お母さんは私を大学にやる為にずっと働き詰めになった。だから、私が大学を出て就職した時に言ったのだ。

『お母さん、私はもう大丈夫だから。もしお母さんに好きな人ができたら、その時は遠慮しないでね』

烏野高校に赴任が決まった時、電話口でお母さんに言った自分の言葉を思い出す。でも、いざ目の前のお母さんが、父以外の男の人と出かけるのを想像すると、少し複雑な気分だった。数年たった今でも、この家にはまだお父さんの思い出ーー趣味で集めていた小物だったり、戸棚の上に置かれた写真だったりーーが、たくさん溢れていて、ひっそり息づいている気がしたから。もしもお母さんが別の人を好きになってしまったら、相手の人はこの空間にもいやおうなく、どんどん入り込んでくるんだろう。

あんなこと言っておいて、いざとなるとまだこだわっている自分を勝手だな、と思う。そんな気持ちを悟られないように、私はなんとか笑顔を作った。

「…どんな人なの?」

「思いやりのある、優しい人よ。職場の人の紹介で知り合ったの」

「そっか…良かったじゃない。私は大丈夫だから楽しんできてね」

「ふふふ、ありがとう」

そう言って微笑んだお母さんは、すごく幸せそうに見えた。
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