第3章 3vs3
3対3当日。
目を覚ますと、時計は既に午前10時40分を指していた。今日は土曜日。いつもより長く寝たはずなのに、ちょっとやそっとの睡眠で溜まった疲れが取れるはずもなく、私は目を覚ましてはまたうとうとと眠りに落ちてを繰り返した。
そしてようやく予定の数十分後にズシンと重い身体を起こした。目をこすりながら、まるで冬眠明けの寝ぼけた熊みたいに、のろのろと布団から這い出す。
カーテンを開けると、眩しい光が飛び込んできた。日はもう高く昇っている。耳を澄ますと、階下からはテレビの音がかすかに聞こえてきた。お母さんはとっくに起きているみたいだ。
「おはよう」
一階に降りてリビングに声をかけると、ソファにもたれながらテレビを見ていたお母さんもおはよう、とこちらを振り返った。私を見るなりぷっ、と吹き出す。
「ひどい寝癖よ」
「えっ、ホント…?」
慌てて髪を触ると、前髪がビヨーンと横に流れ毛先がクルンと上を向いているのが分かった。アニメや漫画のキャラクターみたいで、なんだか自分でもおかしくなってしまう。私は何度も指で梳いて形を整えた。
「今日はお休みでしょ?ゆっくりしなさい」
「うん…でも部活動にちょっと顔を出すつもり。ご飯食べたら出かけるね」
「あらまぁ、大変ねぇ…」
「あなたは座ってなさい」と言って立ち上がり、代わりに朝食を作り始めてくれた。よっぽど疲れた顔をしていたらしい。その場はありがたくお母さんに任せることにして、私は冷蔵庫の牛乳をグラスに注いだ。
サラダ用のレタスをちぎりながら、お母さんが言った。
「帰りは夕方くらい?またすれ違いねぇ…」
「あれ、お母さんも今日は休みでしょ?晩ごはんは一緒に…」
「実はね…、デートなの」
そう言って、照れくさそうに目を伏せる。私はビックリして、牛乳の入ったグラスを危うく落としそうになった。
「やだ、そんなに驚かないでよ」
「ご、ごめんごめん…!」
くしゃりと笑ったお母さんから、今度は私が目を逸らす。まさかお母さんの口から『デート』なんて色っぽい言葉を聞くとは、これっぽっちも想像していなかったから。