第11章 ふたりの距離
「…そ、そんなこと考えたこともなかったから、自分でもどうしたらいいのか…分からなくて…それに…」
「…それに?」
「それに…清水さんが孝支君を好きだって…知ってた…から…」
ひときわ小さな声で、みなみさんは呟いた。
鼻をすすって、震える呼吸を整える。
「…孝支君には、清水さんみたいな人がお似合いなんじゃないか、って…」
「みなみさんが清水のこと気にする必要ないだろっ…」
「だって、分かるもの…。好きな人が、自分から離れていく気持ち」
そう言って視線を落とすみなみさんが、誰のことを言ってるのかすぐに分かった。
「……青城の藤宮先生のこと?」
みなみさんはまた大粒の涙をこぼして、
静かに頷いた。
肩を小さく震わせながら。
俺はつっかえていた息を静かに吐き出した。
昔っから変わってない。
そういう周りに対して誠実なところも、
誰かの気持ちに優しすぎるところも。
そんな不器用さが呆れるくらい愛しくて、
だからこそ俺は、
そんなみなみさんを好きになったんだ。
「みなみさんはさ…他人のこと考えすぎて、自分を大事にしなさすぎだべ」
「そんなことない…」
「藤宮先生のことだってそうだろ?好きなくせに、忙しい時期だから声掛けないでおこうとか、えっと…相手に別の恋人が出来たから自分は出しゃばんないでおこうとか…。そんな風に自分を抑えて、相手を優先させて来たんだろ?」
そこまで言って、
俺はみなみさんに向き合った。
うつむいた顔を覗き込むようにして、
真っ直ぐその視線を捕まえる。
逃れようとみなみさんは身をよじって続けた。
「だ、だって…私の方がずっと年上なのよ?孝支君は生徒で、私は教師だし…」
「……俺が知りたいのはさ、みなみさん自身の気持ちだべ」
「…………」