第11章 ふたりの距離
「…とにかく、まずは総合力だな」
GW合宿から一週間。文化祭の準備で賑わう放課後、男子だけが残った教室で大地がそうこぼした。
宿敵、音駒高校との練習試合は、結局1セットも取れないまま音駒側の勝利で終わった。臨機応変に対応してくる音駒に、日向と影山の速攻を活かしきれず、うまく畳み込まれた感じだ。
悔しい気持ちはもちろんある。けど、いっそ清々しいほどの完敗っぷりだった。着替えのために制服のボタンを外しながら、そんな試合の様子を思い出してみる。
「確かに…。この前の合宿、音駒にボロ負けだったもんなぁ…」
あぁ、と神妙な顔で大地が唸る。
「音駒、青城と試合してみて思ったよ。俺達のチームは、個人技で勝る部分があったとしても、全体のバランスが悪くてチグハグだってな。もちろん、まだまだ個々のレベルアップも必要だけど、それ以上に全員の連携をもっと密にしていく必要がある」
「だな…」
「スガはどう思う?」
「うーん…音駒みたいな相手はやりづらいよな。青城みたいにサーブとかスパイクで派手なプレーがあるわけじゃないけど、安定感があるっつーか…」
そう言って脱いだ上着の胸ポケットから、淡いピンク色のハンカチが落ちた。気付いた大地が拾い上げ、俺に手渡す。
「ハンカチ落ちたぞ」
「あぁ、悪い」
「…お前にしては可愛いハンカチだな」
「お、俺んじゃねーべ…!その…母さんのと間違えたんだよ、今朝慌ててたからさっ」
「ふーん…」
苦し紛れの言い訳が嘘だとバレたのか、大地は探るような目付きでこちらを見た。それ以上追求されない様に引ったくるようにしてポケットにしまうと、大地は「はい、はい」と小さく肩をすくめた。どうやら諦めてくれたらしい。
…それは合宿の最終日、清水が俺に預けたものだった。
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『菅原、悪いんだけど、これ野村先生に返しといてくれない?たぶん先生の忘れ物だと思うから』
『なんで?清水から直接渡してくれればいいのに』
『うん、そうなんだけど…。きっと気を遣わせちゃうと思うから』
『はぁ…?まぁ、別にいいけど…』
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