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君への5センチメートル【ハイキュー!!】

第9章 特別なひと


孝支君はぶつぶつと文句を言って英単語帳を開く。三年間使い続けているその手帳は、何度も何度も見直されたのか擦り切れて、たくさんの付箋が貼ってあった。

昔もこんな風に私の横で宿題してたっけ、なんて思い出す。

「ソレすごく使い込まれてるね。ここまで使ってくれたら、この単語帳も本望かも」

「あぁ…確かに…」

孝支君は手にした単語帳をまじまじと見た。

「俺、自分で言うのもなんだけど器用貧乏だからさ。なんでもある程度のとこまではこなすけど、ほんとに凄いヤツとか、何かに特別秀でたヤツにはここ一番で負けちゃうんだよ。…だから、凡人は凡人なりに頑張んないとね」

そう言って困ったように笑う。孝支君が影山君のことを言ってるのがすぐに分かった。

少し迷って、私は口を開く。

「さっきね、ご飯の前…。孝支君が烏養さんと話してるとこ聞いちゃったんだ」

「えっ…!」

驚いた顔で孝支君が顔を上げた。

「ほ、ホントに…?」

「うん…。ご飯ができたからみんなを呼びに出て、偶然居合わせちゃったの…。ごめん」

「な………」

孝支君は一瞬固まった後、頭を抱えてがっくりと肩を落とした。

「なんだよ〜、人がせっかく烏養さんが一人になったのを見計らって話しに行ったのにさ〜…。俺、すげーカッコ悪いじゃん…」

「カッコ悪くなんかない…!」

思いの外声が大きくなってしまい、孝支君も目を丸くしてこちらを見た。私は少し声を落として続ける。

「…私、すごいなって思ったの。あんな風に言えるの、孝支君の強さだと思う。だから、カッコ悪くなんかないと思う」

「そーかな…」

「うん、私知ってるもの。孝支君はすごく真面目で、すごく優しくて、ちゃんと周りを見てる人だって。誰かに劣るとか勝るとかじゃなくて、孝支君には孝支君の戦い方があるはずよ」

「…………」

小さくうなずきながら「そーだよな…」と一人呟いて、孝支君は何かを考える顔で黙ってしまった。

励ますつもりが、逆に傷つけてしまっただろうか…。沈黙に耐えきれなくなって口を開こうとした時、孝支君は顔を上げて、歯を見せて笑った。

「…ありがと。みなみさんに言われるとすげー嬉しいや」

不意に向けられた眩しい笑顔に
私の心臓が音を立てて跳ねた。
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