第9章 My sweet honey
俺は、
智に渡されたスケッチブックを開いてみた。
そこにある白が、
俺には、見たこともないヒマラヤの雪より白く、
気高いものに感じ、
迂闊に手を出しては、
いけないような気にさえなってくる。
...どう描けばいいのか?
智は、見たまんま描け、って、
そう言ってたけど。
見たまんまって...。
絵の少年に見入る彼の顔…
綺麗だな...
見たまんま...
見た…まま...
彼の横顔をじっと見ながら、
すっと、線を引いた。
俺は、いくらだって
彼を見ていられるこの作業に、
だんだん、入り込んでいった。
...しばらくして。
夢中で描く俺の鉛筆の音に、
智が気付いた。
「何描いてるの?」
そう言いながら、彼が、近づいてくる。
そこで初めて、自分の絵を、客観的に見た。
見て...
(これを、彼に見られたくない///)
とっさにスケッチブックを閉じて、
「いや..いいって...智は、描いてろよ...
俺、何も描いてないから...」
「描いてたじゃん!見せてよ!」
「やだよ!!...いいよ!」
「なんでよ!いいじゃん、
見せてくれたって!」
俺たちはもみ合い、
結局、彼にスケッチブックを
奪われてしまった。