第9章 My sweet honey
智は、お茶で口の残りを飲み込み、
おしぼりで手を拭きながら、
ゆっくりと俺に近づいてきた。
「翔ちゃんいても、俺は、描けるし。
.....そうだ!
翔ちゃんも、何かの描いたらどう?」
突然のその提案に、
「俺も~?」
そう驚きながらも、
智の横にいてもいい、許可を貰えた気がして、
「じゃあ...なんか、描いてみよっかな...」
と、言った。
それが、余程嬉しかったのか、
智は、スケッチブックと鉛筆を、
急いで持ってきて、俺に渡した。
「思ったまま、描けばいいんだよ!
翔くんの見たまんま、ここに、描くの♪」
嬉しそうな彼に、何も言うことができずに、
俺は黙って、スケッチブックを受け取った。
.........
智が再び絵の少年と向かい合うと、
部屋の中に、静寂が訪れた。
室内には、彼の出す、
静かな音だけしか聞こえない。
この世の中の、この空間に
俺と彼だけしかいないような、
不思議な錯覚さえ覚える...
そんな、時間...
俺は、絵に没頭する彼を見ていた。
...顎のライン。
...真剣な瞳。
...ふんわりとした黒髪。
...細い指。
...魅惑的な唇。
.........
俺も、描いてみようかな。
綺麗な横顔の、
彼を...。