第11章 軋み始める関係
…どうしてイッチーは、私にキスしたんだろう。
昨日、家に帰ってから一晩中考えた。それでも答えなんて出てこなかった。
あの時のイッチーは…感情が読み取れなかった。だからこそ戸惑ってしまう。
何も言ってくれなかった。ただ一言謝られただけ。
そうじゃないよ、イッチー。
私は…あなたの気持ちが知りたいのに…
結局、一日通して授業に集中できないまま放課後になってしまった。
力のない足取りで、廊下を歩く。文化祭の準備ももう終わったために早く帰れるのだけど、今日はそれがありがた迷惑のように思えた。
つまり、今日からまたおそ松くんが校門に迎えに来る。ここ最近会っていなかったから嬉しいはずなのに、心はどんよりと曇ったまま。
会いたいけど、会いたくない。おそ松くんは鋭いから、黙っててもきっとすぐ私の様子がおかしいことに気付くはずだ。
かといって、正直に話せるはずもない。でも、もしイッチーから聞いていたとしたら…
保健室が見えてくる。私は通りすぎようとして…扉の前で足を止めた。
多分、彼はいつものようにベッドで眠っているだろう。そして私は昨日まで、そんな彼に会いに行くのを毎日楽しみにしていた。
めんどくさそうにだるそうにしながらも、きちんと私の相手をしてくれる。話を聞いてくれる。親友を差し置いてでも、彼は私にとってこの学校で一番心を許せる人だった。
…ううん、過去形じゃない。今も、これからも。
きっと何か理由があるんだ。そう、信じなきゃ。
…でも、まだ気持ちの整理がつかない。扉の取っ手に伸ばした手を引っ込め、私は再び玄関に向かって歩き出した。