第15章 猫王子と修学旅行
田中「そろそろ時間や。次の店行けへん?」
『そうだね!もう試食も済んだし』
店主「おう帰れ帰れ!試食ばかりして何も買わない客なんて願い下げだ!」
『違うよおっちゃん!気に入ったのあったから最終日また買いにくるからさ!今買っても腐るだけだし』
店主「嬢ちゃん…約束だぞ!ほら、これもやるからよ!」
『まじでか!おっちゃん大好き!!絶対来るよー!!』
「ねぇ赤ちん」
「…なんだ」
「ちんって面白いね」
いきなり敦が隣に来たかと思うと、開口一番にそう言った。波長が合ったのだろう。
「そうだな」
「黒ちんたちから最初聞いたとき、絶対あり得ねーって思ったもん。どんな人か聞いても、頭悪そうとしか教えてくんねーし」
「…そうだろうな」
「けどさぁ、黒ちんも峰ちんも黄瀬ちんも、ちんは面白い人だって言ったんだよね~。その意味、俺分かったかも」
「…そうか」
「俺もう行かなきゃいけないから言うけど、頑張ってね。ちんバカだから苦労もすると思うけど、赤ちんのちんを見る目を見てると、好きなんだな~って分かる。だから、頑張って」
「敦…あぁ、もちろんだよ」
敦はいつもの眠い顔のまま鞄からお菓子を取り出した。いつものまいう棒だ。
「ちーん!」
『なーにー!?』
「俺もう帰るねー!赤ちんの事、よろしくね~」
『?おっけー!』
敦は踵を返して別の道へと歩いて行く。そして何を思ったのか、こちらを振り向いた。
「赤ちん」
「何だ」
「ばいばい。ウィンターカップでまた会おうね~」
「…あぁ、もちろんだ」
僕は敦のあの大きな背中が見えなくなるまで、ずっと見つめ続けた。