第9章 てるてる坊主の恋<猿飛佐助>
「佐助くん…」
壊れ物を扱うかのような繊細さで、俺の頭を撫でてくれる。この手をずっとずっと…繋いでいられたらいいのに。
彼女が安土城の武将たちに愛されていることは、彼女がこの時代で生きていくにはとても都合がいい。理屈ではわかっているけど…俺の心が、叫んでいる。
「今すぐ、君を攫ってどこかへ逃げたい」
現代にいるままだったら、君に逢うことはきっとなかったね。だから…この時代に来れたこと、後悔はしていない。大事な縁もたくさんできた。
でも、大事な春日山の皆を頭の隅に追いやってしまう程、君を愛してしまっている。
「佐助、くん…私も…」
ああ。タイムリミットが来てしまった。断腸の思いっていうのは、きっとこういう感情なんだろうな。
廊下の足音にびくりと身を震わせた君の唇を掠め取る。…ごめん。これくらいは、許してほしい。次に会うときまで、また頑張れるように。
「また、すぐに来るから」
「うん…」
何か言いたそうな桜さんをその場に残して、時間を巻き戻すように天井裏に戻った。
・・・やっぱり、政宗さんだった。
桜さんが会話する声を後に、静かに俺は城を出ていく。約束しよう、すぐにまた行くよ。雨が降っても、会いに行く。君がてるてる坊主を作らなくても、寂しくないように。
そして遠くない未来に、君を攫いに行く。
終