第9章 てるてる坊主の恋<猿飛佐助>
今日も今日とて、俺は安土城の中にいた。桜さんに会いに。
城門を越え、堀を越え、石垣を越え。今は、城の天井裏をほふく前進している最中。
…おや、あの声は。
通り道の部屋の上。俺が尊敬する武将の気配を察知した。慎重に板をはがし、隙間からそっと見る。
「はい。それで…」
やっぱり。あれは家康さん…!
出来ればサインをもらいたい…けど、ここでばれたら水の泡。こうして天井裏から様子を見るだけだ。
じー。
じーーー。
ちょっと見つめすぎたか?何かの気配を感じたみたいに、俺の方へ家康さんが顔を上げる。既に天井の板は元通り、隠れているけどね。
「どうした」
「いえ…何でも」
話をしているのは…政宗さんか。
「それで、桜がなんだって」
…桜さん?
「最近いつにもましてぼんやりしてるんですよ。病気かと思って聞いても、誤魔化されてるみたいで」
「そうか、俺も様子を見ておく。あとで美味しい物でも作ってやるか…」
桜さん、調子が悪いんだろうか。心配だな…。急いで桜さんの部屋へ向かおう。
もう何度も通ってきた天井裏をすいすいと進む。我ながら、忍者としてかなり優秀な方だと思う。