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【イケメン戦国】紫陽花物語

第1章 もう一つの物語<武田信玄>


最近、どうも一人で城下に行くことが
多いとは思っていたんだ。
俺や幸なんかと一緒に行くことが減って。

新しい玩具を見つけた子供のように、
その麗しい目をきらきらと輝かせて。
あの子が何に興味を持っているのか、
早く突き止めておけば良かったのに。



「…両想いに、見えました。」
佐助がそう報告をしてきたとき、
俺はあの子を手に入れられないことよりも、
あの子の笑顔を守る方法を考えていた。


「俺はどこまでも、あの子の味方なんだ。」



夕刻はとうに過ぎ、あたりが暗くなってから
城を出た桜についていくのは容易かった。
待っている家康のことで頭がいっぱいなのだろう。
周囲をさほど警戒もせず、
ただ前を見て小走りに駆けていく。

やがて立ち止まったあの子の傍に―――家康。


穏やかな表情の家康に、嬉しそうに駆け寄る桜を見て、今すぐに家康を切り捨てて、桜を腕の中に閉じ込めたい衝動に駆られる。

苦しい。

歪みそうになる表情を、無理やりに余裕ある笑みに変えて二人の前へ出れば、家康がさっと桜の前へ出て庇う。

「こっちへおいで、桜」

…あぁ。できれば本当に、戻ってきてくれさえすれば、この胸の苦しみが少しは和らぐのに。

刀を抜き放って家康と対峙しても、真っ青な顔のまま、桜は家康の傍から離れようとしない。
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