第6章 降りしきる夜雨<織田信長>R15
「雨はお好きですか?」
腕の中から声がする。
つ、と視線をやると、愛らしい眼が自分を見ていた。
いつの間にか天守の部屋は薄暗く、雨のせいで湿気をはらんだ空気がゆるゆると流れている。
「好きとは言えんな。俺が外へ行くときはどうも雨が多い」
「雨男なんですね、信長様は」
くすくすと笑う声に、知らず自分の口許も緩む。身動きした際にはらりと流れた前髪を優しく撫でて整えてやる。
「作物のためには雨も大事だが、戦にとっては邪魔でしかない」
「そうでしょうね…あ、でも」
そこまで話した桜は、どこか嬉しそうに、
「雨が続けば、ずっとおそばにいられますね」
そう言ってにこり、微笑む。
桜の頬を撫でて、その笑みを愛でる。髪にひとつ口づけを落としてやれば、その頬はほんのりと染まり、見惚れるほど。
「貴様の考えることはいつも他愛ないな」
だがしかし、それが自分には心地よくて。
腕の中にいる桜を、抱き締め直す。
「雨など降らなくとも、貴様の傍にいる」
「ふふ…ありがとうございます」
「桜、来い」
片腕に乗せて抱き上げ、外が見えるところまで歩む。春の細い雨が、音もなく降っている。天守から暗い町を見下ろしていると、まるで自分達しか存在していないかと錯覚しそうになる。
何となく感じた不安を払拭するように、桜を降ろし、抱きすくめて唇を奪う。
「ん…」
啄むような口づけを何度か交わした後、桜の口内に舌を滑り込ませる。
舌を絡め、唾液を交わらせて濃厚な口づけ。
桜がその華奢な腕で、必死にしがみついてくる。
「…ぅ…んっ…」
執拗に桜を求めた。
口から唾液が溢れても、それを舐めとりながらさらに。