第28章 少女のいる世界
今何か聞こえた?
うん、何も聞こえなかった。
綺麗だなんて、そんなものは前言撤回だ、なんだこの人。
一言で言おう、やばい人。
頭の中を埋めつくしたのはそんなこと。
「あら、あっさり言っちゃうんスね?」
「隠しとくもんでもないだろ、本人がどう感じるかは本人の自由だし」
『…あ、貴方…、何者…?あ、頭…大丈夫ですか?私まだ結婚出来る年齢じゃ「ああ、じゃあ未来の嫁だ」……う、浦原さん…っ』
「あーあー、怯えさせちゃった。大丈夫っスよ蝶さん?この人、ただ貴女のことが大好きすぎるだけで何も害は……うう、ん…」
言い淀んだ浦原さんに更に目の前の男性に警戒心を抱く。
はずなのだが、どうしてか嫌になりきれない。
警戒、してるのに。
なのに、真っ直ぐ見つめられると目が話せなくて、その声に呼ばれるのがたまらなく心地よくて。
「そんなに警戒すんなよ、無理矢理何か迫ったりするつもりねぇし…避けられるよかよっぽど扱いやすいが」
『……、中原さんって、蝶に怖いことする人…?』
「いいや?お前に怖がられて泣かれたら死にたくなる人」
『…なにそれ、頭おかしいんじゃないの』
ぽつりと、言ったことのあるような言葉がこぼれ出た。
『!ご、めんなさい…私目上の人に何を…』
「大丈夫だ、気にすんな。全然目上の人なんかじゃねえから…それで浦原さん、俺にもすんのか?精密検査」
「ああ、中也さんは大丈夫っスよ。ただこの子に会わせたかっただけですから」
「だよな、そんな気はしてた。何かあるとしたら蝶の方だろうし」
浦原さんの呼び方に、また違和感。
違和感…?ううん、違う、“しっくりきた”。
『…中、也……さん』
「!…何?」
『!?…い、いえ…何も…っ』
無意識のうちに口から出た声に、ぶわっと顔に熱が集まってくる。
それを隠すように、浦原さんの背中に隠れて彼を視界から外してしまう。
初対面から失礼だろうか…いやまて、今の私からしてみれば初対面だけれど、この人は私の事を知っていた…?
『…未来の、お嫁さんって……貴方の奥さんって、本当?…私が?』
「…本当に。籍を入れたわけじゃあないけど、それでも互いに望んでしたことだ」
旧姓、と森さんが呟いていたのはそのせいか。
ああ、私はそんな人に、なんということを言ってしまったのだろう。
『…ぁ、の…ごめんなさぃ……』