第12章 夏の思い出

｢そんで蝶、昼飯の話に入『嫌』…駄々こねんな、飯は食え飯は｣

『……やだ』

｢…これは？｣

｢見ての通り、飯を食いたくねえって駄々こねてんだよ｣

中也を先程までとは打って変わって、ｷｯと睨みつける。

『駄々じゃないもん、食欲ないから食べたくないだけ』

｢昼んなったらの話だっつの。せめて一つでも甘いもん以外に何か食ってくれ｣

『ご飯食べたくない』

｢それを駄々っつうんだよ、そういうわがままだけは聞いてやらねえからな。ちゃんと飯食ったら、薬ねえけどゼリー食わせてやるって｣

ゼリーという単語に魅惑の白桃を頭の中に思い浮かべはしたものの、すぐに胃にくる気分の悪さに少し気持ちが悪くなった。
思わず口元に手を当てて、息を止めるように気持ち悪さに耐える。

『……ｯ…』

｢………いい機会になった、お前まだ結構抵抗はあったんだな。風邪もやっぱりたまにはいいらしい｣

｢な、中原さん？蝶の様子が…しかも飯食いたくねえって……｣

｢普段食べてる分でもこいつにしてみりゃかなり無理して頑張ってる量だ。風邪をひいたらまず食ってくれなくなるから、そこの説得から始めなくちゃならねえ｣

あれで無理してる量！！？

立原の驚いた声に更に胸まで気持ち悪くなってきた。
美味しいご飯が嫌いなわけじゃないし、拒食症だとかいうわけじゃない…と思いたい。

『嫌…食べれない…』

｢頼む、頑張ってくれねえか…頑張ってなんとか美味くするし、消化のいいもん作るから｣

『！…中也が、作るの……？』

｢当たり前だろ、もう俺だって料理は得意になっちまってんだから…つか前にもちゃんと作ったろうが。卵か梅か、何もねえのかどれがいい｣

牛乳って手もあるけどな、と選択肢を出され、中也の方をﾁﾗﾘと向く。

不思議、この人が作ってくれるって思うとちょっとだけマシになった…気がする。

『…卵と梅……ちょっとだけ…中也のなら食べる』

｢相変わらずそれが好きなんだな、まあ分かってはいたが。楽しみにしとけー、いっぱい食わせてやる｣

『ちょっとだけ！！！』

はいはい、と笑う中也。
絶対食べさせるつもりだこの人。

だけど本当に不思議なもので、罪悪感とか関係なしに身体が食べ物を受け付けなかった状態の時も、この人の手料理だけはなんとか食べる事が出来たものだ。

｢何回目かにもなると慣れてきたなそろそろ｣