第2章 深まる関係
その日の夜。
両親と夕飯を食べていると、珍しく父の機嫌が良く、穏やかな口調で話しかけてきた。
「七瀬、大学はどうだ?」
今日の様に稀に父の機嫌が良い日があり、しかし何をきっかけに機嫌が悪くなるか分からないので、あたしはなるべく明るい娘を演じる。
「勉強は順調だし、サークルの仲間とも上手くやってるよ。毎日凄く楽しい!」
「そうか、良かったな。」
父は笑みを浮かべた。
あたしは夏休みにシュリのお見舞いに行きたいと思っている。
言うなら今しかない。
「ねぇ、お父さん。お願いがあるの。」
「何だ?」
「前に話した、大学で仲良くなった明智シュリちゃんて覚えてる…?」
「勿論、覚えているよ。」
「シュリがね、白血病になって…地元が長野だから長野の病院で治療を受ける事になったの。それで…夏休みになったら、一回で良いからお見舞いに行きたいの。少し遠いから、その…。」
恐る恐る父の顔を見つめると、父は眉間にシワを寄せた。
「一人で行くのか?」
本当は徹と…できたら紫音も一緒に行けたらと思っているが、男の名前を出したら許可されない気がしてあたしは嘘をついた。
「うん。一人だよ。」
そう言うと、父の顔に笑みが戻った。
「七瀬は友達想いなんだな。行ってあげなさい。その日は夜の11時までに帰って来ればいいからな。」
「え!?いいの?」
「場所も遠いし9時までに帰って来るのは大変だろう?その日は特別に許可する。」
「ありがとう、お父さん!」
正直、許可される所か門限まで延ばしてもらえるとは思っていなかったので内心凄く驚いた。
あとはそれまで、父の機嫌を損なわないように気を付けよう。