第7章 ・お出かけします その1
文緒はついブツブツ言うが勿論義兄は取り合わない。
「それはそれとして」
しかも流した。文緒と暮らすようになった影響なのか。
「母さんに予定を伝えておこう。」
「はい、兄様。」
この会話の間文緒はやはり若利の膝に乗っけられたままでこれがもし無音映画なら父親とその娘に見えたかもしれない。
その後兄妹は母に休みの予定を告げたところ母は一瞬目をパチクリさせた。しかし程なく家の方は問題ないから行くといいと言う。
「ありがとうございます、お母様。」
文緒は言いながら義母が笑いを堪えている気がしてならないと思う。
「どうかなされましたか。」
義母は何でもないと言うが文緒はもしかしてと思った。しかしあまり深く突っ込まない事にした。
「行くぞ。」
「はい、兄様。」
若利に肩をくいとひかれて文緒はその場を後にした。
「母さんが嬉しそうに見えた。」
ある程度離れたところで若利が言った。
「兄様もそう思われますか。」
「ああ。」
「どうしてでしょう。」
ポテポテと若利の横を歩きながら文緒は首を傾げる。若利もノシノシ歩きながらしばし黙っていたがやがてこう言った。
「あわよくばと思っているのかもしれない。」
文緒は一瞬ポテポテ歩いていたのをやめた。
「何だ。」
急に足を止めた義妹に若利が尋ねてくる。
「その」
文緒はほんの少しだけ戸惑った。
「兄様がそういった事を感づかれた事に少々驚きました。」
少々どころか明らかにキョトンとしていたのは見たらわかる事で若利もまた足を止めて僅かに眉根を寄せた。一瞬沈黙が流れる。
「あっ。」
突然若利の片腕に身体を引き寄せられて文緒は叫ぶ。しかもワンピースのポケットに入れていた携帯型映像機器を抜き取られた。
「これは今夜預かっておく。」
「そんな、困ります兄様。目覚ましに使ってるのに。私が遅刻しても良いのですか。」
「俺が起こす。」
「朝から私の部屋に来られる気ですか、また無理な事を。」
「何を言っている。」
それはこっちの台詞である。文緒も敬語に変換してそう言おうとした。が、
「同じ部屋に居れば良い事だろう。」
何の話かわかった文緒は流石に抵抗した。