第1章 【新堂カイト】
「ありさちゃーん!ちょっとこの衣装なんだけどね…」
「はい!…あ、じゃあこうして…」
製作室のドアが開いて、私の名前を呼んだのは桜木陽向君。何年か前、天才子役として有名になった彼。今は夢色カンパニーの主演キャストの1人だ。
衣装のデザインは陽向君がやっている為、衣装製作として夢色カンパニーで働いている私にとっては上司みたいなもの。歳下だけどね。
今回は次の公演の衣装デザインの相談。いつ見ても陽向君のデザインは素敵で見惚れてしまう程だ。生地をコレにしたら、という私の言葉に考え込んでしまった陽向君。でしゃばり過ぎただろうか。
「あの…」
「うん、それでやってみよう!頼んだよ、ありさちゃん」
「はい!やってみます!」
納得したように笑った陽向君。本当に笑顔が眩しい。
デザイン画を受け取って、早速製作の準備に取り掛かろうと気合いを入れる。
陽向君に任せてもらえたのだから精一杯頑張らないと!
「あ!カイトくん、どこ行くの?もうすぐ練習再開するよ!」
「あ?んだよ、どこだって良いだろ」
「よくないから言ってるんじゃん!ちょっと、カイトくん!」
生地を探していると、陽向君から発せられたその名前にビクッとする。
ー新堂カイト。
人気バンドの元ボーカル。夢色カンパニーでは楽曲担当。
そして、私の憧れの人……
ひと目その姿を見ようと振り返るも、既に姿はなくて。
カイトさんを追いかけたらしい陽向君の姿もそこにはなかった。
さ、私は私の仕事をしっかりしないと。
小さくため息を吐いた後、首を振って気持ちを切り替えればデザイン画を見つめる。型紙から作ろうかなと思えば大きな紙を広げて腕まくりをした。
「ありさー!居るー?」
集中しようと思った矢先、大きな声で呼ばれたのに気付けば、作業している手を止めてドアの方を見た。