第1章 髪の長い男
洗顔で爽やかな朝を迎えられた後、髪を整えドレスに腕を通す。
「今朝はどのような花々が私を待っているのかしら·······___」
口を開き、そう言ったものの、私の頭にはただ一つの事だけしかーーーーーー。
私は、毎朝この言葉を言い放す。
「今日、王子様しか来ないわ····。」 ギイィガガガガッッッ。
想像上の生命体が彫刻された鉄格子を全力で押し、ゆっくりと開くことは出来ず、ガガガガッッッと押した。
私の頬、今日一番に熱い。
「私の王子様ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
シャキッ。気持ちとは裏腹に、私の右手は新たな花を丁寧に。
一本のツタがバレリーナの、、、あの何かほら回す物みたいに曲がり、光を吸おうとそびえ立っている茎達に巻き付いている。
「今日も来なかったわ。はぁ···」
時計の針が何度廻っても花は素敵。溜め息が底から出るわ。別の意味でも。
日が掠れた雲に隠れれば、花弁は突如踊るように舞い、一枚も残さず土の中の根をも____
「あら、この花は全体的に形が良いものだわ。」
切った茎から、また茎が回って生え、蕾が出来ていた。
植物というのは、夜毎に死に、太陽の元で再生するようにまた芽が出、茎をくねらせ、瞬きをする間に果実を付ける。
"人々"は、これを不思議、というのかしら。
そんな事をぼんやり頭に思い浮かべるも、私はある一つの事だけでそれはかき消される。
「今は植物はどうでも良いわ、早く王子様に出会わなくちゃ!」
ボスッッッと切った花を服の胸らへんにあるポケットに入れ、私はくるんッと森の方を振り向いた。
私の心そのものにドレスはフワッと私の膝以上まで浮き上がる。
そしてトットットッと今の空色とは正反対の、水色に近い、青い靴で箱庭を駆ける。
「絶対、此処にーーーーーーーーーーー」
時計の針より遥かに速い、規則正しく揺れ動く、海のような色の髪は突然止まる「いないわ。私の王子様······」
ゴガァァ、ゴゴゴゴゴゴゴゴ···