第1章 御幸一也の妹
「お、いたいた」
「どれだよ」
1年生の教室の中を廊下から御幸は指差した。
御幸の指さす方を見るがよくわからない。
「ほら、あそに座ってるの」
「あ?だからどれだって」
よく見てみるとひとつの机を男子が囲っている。
その中心に小柄な女子の姿がある。
「! お兄ちゃん!」
「よっ!相変わらずすげーな(笑)」
「笑いごとじゃないよもー…。」
御幸の妹は小走りで駆け寄ってきた。
「けど、お兄ちゃんのおかげで助かったろ?」
「そ、そうだけど…。」
「ははっ、こいついつもこうなんだよ」
御幸は妹の肩を掴んで俺にそう言った。
いつもこう…とは、多分男子に囲まれていたことだろう。
確かにその変のアイドルなんかより全然可愛い。
「あ、こいつ野球部の倉持ね」
「はじめまして!妹の御幸真帆です」
「ヒャハ!よろしくな!」
俺が握手を求めて手を差し出すと、
小さくて柔らかい両手で俺の手をぎゅっと握って
「よろしくお願いします、倉持先輩!」
と微笑んだ。
横で御幸が妹にヒソヒソと「こいつ元ヤンだからあんま関わんねー方がいいぞー」とかなんとか言っていた。
俺はこんな憎たらしい奴の妹にこの一瞬で恋をした。