第3章 君が笑えるように
「松本、飲み行く?」
東京での本社会議も終えて
本社にいたころの同僚に
そう声をかけられたけど。
「ごめん、二宮。
今日は用事があって。」
「ま、そうだよな。
久しぶりの東京でしょ?
じゃ、また今度。」
「じゃ。」
あんまり他人に干渉してこない
二宮の性格には正直助かってる。
もし本社時代の部長とかだと
「何?遠距離恋愛のカノジョ?
青春してるねぇ~。」とか
いいかねないから。
それに「いやー、別に…。」
とか言って濁すと
「じゃあ何なのー?」って
問いつめてくるし。
今までは雅紀に会いたいという気持ちは
募っていく一方だったけど、
いざとなると不安になってくる。
雅紀に会いたいと思って
2年もずるずる引きずってたのが
俺だけだったら。
今ごろ新しい彼女とか作って
幸せになってたりしてたら。
そんな不安がこみ上げて来ながらも
足は自然と雅紀の家に向かっていて。
マンションの下まで来て、
やっぱりやめようかと
引き返そうとしたその時。
遠慮がちに、でも強く
俺の肩をつかむ手があった。