第3章 君が笑えるように
もうコートって時期でも
ないからと、春物のパーカーを
引っ張り出してきて羽織る。
近くのスーパーに
買い物に行くだけだからと
財布とスマホだけ
ポケットに突っ込んで…、
「あれ?」
指先に紙のような感触がして
出してみると、映画のチケットだった。
あっこれ、そういえば
別れる前、雅紀が「一緒に見よ?」って
わざわざ前売りまで取ってチケットくれて。
その時手ぶらでなんも無かったから
とりあえずパーカーのポケットに
突っ込んどいたんだっけ。
日付は別れてから1週間後…くらい?
結局見に行かなかったな…。
あの時はとにかく
会ったら気まずいと思ってて
1人ででも行っても良かったんだけど
向こうも見に来てたら…って
映画館の入ってる
ショッピングモールまで来てやめた。
あの時見に行ってたら違ったのかな…。
チケットをそっと握りしめたあと
ゆっくりと2つに破る。
想い出にひとつピリオドを打つみたいに。
溢れる涙を拭うこともせず。
気づけば声を上げて大泣きしてて。
大人になってから
こうやって泣くことすら
ほとんど無かったけど、
誰かを想って泣いたりとか
したことなかったなって。
そういえば。
そこまで大事に思える人が
いなかったってことだけど。