第6章 A×S【愛くるしい】
まだぐすぐす言ってるから、
「もう帰ろ。」
って雅紀にハンカチを
手渡して。
腕をいつもより優しく掴んで、
雅紀の歩幅に合わせて歩いて。
それでもまだ、ごめんね。なんて
言ってる雅紀。
「も、全部悪いの俺だぁぁ…」
「んなことないってば…もう、」
「ごめっ…」
「も、謝んないでって…。」
言葉を曖昧にしか
伝えられない
こんな卑怯な俺を、
雅紀はどう思ってるの…?
こんな俺のこと、
まだ好きでいてくれる───?
「翔ちゃん、ほんとごめんね。」
落ち着いてからも、
家に帰ってからも、
そればっかりの雅紀。
コーヒーをふうふうしてる
萌え袖の雅紀を見ていたら、
モヤモヤした気持ちも、
ちょっと尖った気持ちも全部消えて。
むしろ、愛おしいと思えた。
「…ううん。ごめん。
俺、ちゃんと伝えられてなかった。
俺に必要なのは、雅紀で、
これからずーっとずーっと
一緒にいたいのも雅紀。
全部雅紀だよ。
愛してる。
行為だけに
頼っちゃいけないんだもんね。
ごめん。」
俺は、あの行為の中でしか
雅紀にちゃんと伝えられてなかった。