第17章 初恋がロリコン男である件について【バク】
「しっかし、まさかバクがなぁ…ただのリナリーバカじゃなかったか。ま、あたしとしちゃミアのお陰で立派な支部長になってくれんなら、願ったりだけど」
「私には…近い未来に、思えておりましたよ」
「そうか?」
「ええ」
再びぱたぱたとはたきで埃取りを始めながら、ウォンは思い起こすような表情で語った。
「憶えておられますか?ミア殿が幼い頃に、バク様に結婚の申し出をしたこと」
「ああ、あれな。そんであっさりフラれたんだよな。家族は結婚できないってバクに言われて」
「ええ」
「バクにとっちゃミアは家族同然だったんだろ。いつも一緒にいたし、あの頃は下手すりゃ親より長いこと時間を共有し合ってた。ガキなバクには、恋愛感情なんて意味もわかっちゃいなかったさ」
「私は、そうは思いませんでした」
「? なんでまた」
「あの可愛らしい出来事の後にはですね、実は続きがあったのですよ」
思い起こすウォンの口元に柔らかな弧が描く。
あの小さな子供達の小さな出来事から、そう間もない日。
"ウォン!"
"なんで御座いましょう?バク様"
小さな金髪頭の少年に、呼び止められた日のことを。
「ききたいことがあるんだっ」
「このウォンが教えられることであれば、如何様なことでも」
走ってきたのだろう。
はぁはぁと息を切らしながら問い掛けてくるバクに、腰を折り視線を合わせながらウォンは先を促した。
落ち着いて、と言いたいところだが、それ以上にバクの表情が切羽詰まっていた為とてもそんなことは言えず。
はぁはぁと絶え間なく続く呼吸を耳に、じっと問いを待つ。
「…か…」
「はい」
「………」
「…はい?」
「っ…か、ぞく、は」
「家族、は?」
「…っ」
「………バク様?」
呼吸が荒い所為ではないが、どうにも簡単に吐き出せないことらしい。
まだ4歳の幼い子供だが、既に自分の意志を強く持っているバクだ。
流石エドガーとトゥイの息子だと、ウォンもよく感心していた。
故に彼の頭に、問い掛けたい言葉は既に浮かんでいるだろう。
じっとそれを待つこと数秒。
ようやく意を決したように、バクが小さな拳を握った。