第17章 初恋がロリコン男である件について【バク】
「♪」
「何やら上機嫌で御座いますな?」
「わかるか?」
ふんふんと、今にも鼻歌でも歌い出しそうなアジア支部の守り神。
バクの支部長机にふんぞり返り座っているが、その足元は子供のように楽しげに揺れている。
室内に飾られた陶器やスタンドをはたきでパタパタと掃除しながら、見つけたウォンが声を掛けた。
どちらかと言えばこの部屋では、喜びより騒ぎ怒鳴り散らすことの方が多いフォーだ。
そんな彼女に何かあったのかと。
「いやな。面白いもんを見ちまったなと」
そう告げる彼女の言葉通り、面白いものを見たような表情ではない。
何かを愛でるような、そんな眼差しを見てウォンははたきの手を止めた。
見た目は幼女だが、ウォンより遥かに長い時をこのアジア支部で過ごしてきた彼女だ。
そんな彼女が愛するものは、なんのか。
「それはもしや…バク様で御座いますかな?」
それはウォンも知っていた。
「なんだ、バレてたか」
「貴女はバク様のこととなると、いつも以上に多感になります故」
「あたしは守り神の結晶体だ。そんな人間臭い感情なんかねぇよ」
「そうですか?」
「それに生憎、バクのことだけじゃないしな」
「…ほう」
ほっほっと笑っていたウォンの顔に、輝きが満ちる。
「もしやミア殿ですかな?」
「…ウォンにはなんでもお見通しだな」
長年、バクとミアを見てきたのはフォーだけではない。
この老人もまた、愛情を込め傍で見守り続けてきた人間だ。
「そのようなことは。私はバク様とミア殿に、特に目を掛けていただけですから」
「それじゃあ感情もひと押しじゃねぇの?」
「そうで御座いますなぁ…一晩中泣けるくらいには」
「マジか」
互いに核心を突くことは話していない。
しかしそのやり取りだけで充分だった。
ミアの想いは、彼女の幼い頃から知っていた。
そこにバクが応えられるか否か。
それだけだったのだから。