第16章 ◆さよならの前に(神田/ルパン三世)
「っ馬ァ鹿馬鹿しい!人類が火星に住もうかって時代に幽霊なんざ、アナクロだ!」
「ぬふふふ♪」
ぐいっと勢い良くグラスに口を付ける次元には、動揺が見え隠れしている。
長年連れ添う彼のことをよく理解しているルパンは、面白そうにほくそ笑んだ。
にまにまと笑っていたルパンの目が、ふと窓の外の景色で止まる。
雨で遮られた夜の森は、鬱蒼と暗く尚のこと視界を悪くする。
しかし僅かなホテルの明かりに誘われるかのように、石造りの階段を昇る人影が二つ。
傘も差さずに向かう白と黒の対象的な姿に、ルパンは目を瞬いた。
「そんなアナクロだからこそ興味を持つ奴もいるもんだぜ、次元」
「ならそいつは、俺達と同じ泥棒家業の者だろうよ」
「それとは別に、もう一つ」
「もう一つ?」
にんまりと口元にニヒルな笑みを浮かべて、ルパンは次元へと振り返った。
「いたじゃあねぇか。こっわーいアクマ退治を生業にしてる奴らがよ」
「っふぅ…傘を忘れたのは失態だなぁ…」
「これくらい問題ないだろ」
「ユウはね。タオル要る?」
「要らねぇ」
ギィ、と再びホテルの門が僅かに開く。
隙間から滑り込むようにして踏み込んだのは、真っ黒な団服姿の男と白いマント姿の女だった。
目深に被っていたフードを脱いで、防水のマントに張り付いた水滴をタオルで拭う女は然程濡れてはいない。
フードもなく頭からずぶ濡れ状態の男は、雨水の染み込んだ長い黒髪を背中へと流しただけで気にした様子はない。
「いらっしゃいませ、ホテルCieloへ」
「すみません。予約はしていないんですが、空き部屋はありますか?」
深々と頭を下げて迎え入れるアルドルフォに、ぱっと顔を上げた女が問い掛ける。
「本日のお客様はニ名一組様だけですので、お好きな部屋が空いておりますよ」
「良かった!」