第16章 ◆さよならの前に(神田/ルパン三世)
案内されたのは、極々普通のシングルベッドが並ぶ部屋だった。
「夜が更けると色々可笑しな出来事が起こります故。あまり歩き回らない方がよう御座いますよ。ふふふふ…」
「言うことが端から端まで薄気味悪いな、あのじーさんはよ…」
不気味な笑顔を残し去っていくアルドルフォを小言で見送る。
次元はどうやら、彼とは馴れ合えないと悟ったらしい。
気を取り直して部屋へと踏み込めば、流石貴族の元居城。
二人部屋にしては十二分に広く、飾られている家具や内装も立派なものだった。
それが逆に薄気味悪くさせるのだと、次元は更に口をへの字に曲げた。
「それでルパン、なんなんだ。その悲劇の花嫁ってのは」
「当時のガウティーリ家の当主は、とある革命側の秘密結社に所属していたんだ。だが組織の掟に背いて、娘を保守系貴族に嫁がせようとしたことがバレちまってねぇ。見せしめに花嫁アデーラ諸共処刑されたっていう。そんな哀しい話だ」
棚の奥からワインとグラスを手にした次元が、ソファへと腰を下ろす。
ベッドに横になっていたルパンもまたひょいと軽く身を起こすと、徐に懐から小さな本を取り出した。
「お目当ての宝は、そのアデーラに送られた結納の品ってか」
「ご名答!」
「? なんだそれ」
「いや、昔口説こうとした女の子が大のオカルト好きでな。そん時に買ってみたのよ♪」
パラパラと小さな本を捲りながら窓際へと腰掛ける。
ルパンのその手元に注目した次元は、そのまま本の題名を読み上げた。
「"イタリアのホーンテッドホテル"…?」
「幽霊が出るって噂のホテルだけ集めたガイドブックだ」
「ふん。世の中物好きがいるもんだな」
「気を付けろ次元…このホテルは通称"呪われた花嫁の館"なーんつってな。なんと恐怖の5ツ星だぜェ?」
「っ」
ガイドブックを追っていた目を不意に止めると、ルパンは脅すような低い声で不気味に笑った。
余りにその表情が真に迫っていたからか、思わずびくりと次元の肩が跳ねる。
グラスに注いでいたワインが、ちゃぷりと波を打った。