跡部様のクラスに魔王様(Not比喩)が転校してきました。
第4章 心までもが洗われるかのような
「けれど、丁度良かったわ。今日は洗濯するユニフォームやタオルが多いから、とにかく人手が欲しかったんです」
テニス部員達が準備運動に入ったところで、集まったマネージャー達ににっこり笑ってから、魔王に向かって振り向きました。
「ゴーディスヴェインさん、洗濯の経験はありますか?」
「む? 魔王たる余が、自ら衣類を洗ったことがあるかということか?」
「ええ、そう」
「ない」
「そうですか、大丈夫ですよ。氷帝そういう女子も多いんで。だいたいお嬢様ですしね」
あっさりと魔王を、新入生のお嬢様と同じ扱いをする水戸さんでございます。
ちなみに水戸さんは良家のお嬢様ではなく、中等部時代からずっと学費免除の学習特待生でございます。お強いですね。
「基礎の基礎から行きますから、安心して下さいね」
そんな水戸さんに、生意気な魔王とやらなんてやっちゃってください、というような視線を送る、もしくは事の成り行きをハラハラした顔で見守るマネージャー達――無理もないでしょう、何せ背中に剣を背負って、明らかに人外と物語る#Name10#を持つ魔王でございます。
「ふむ、では教授願おう」
しかし魔王は、案外楽しそうに頷くのでございました。
そんな様子をちゃんと見ていたのでしょう。練習の合間に、ランドリールームを覗きにいらした跡部様は、その途中で足を止めて思わず目を瞬かせました。
無理もございませんでしょう。まださほど時間も経っていないというのに、マネージャー達は楽しげに談笑しながらすっかり乾いた洗濯物を取り込むところだったのですから。
「ああ、部長」
振り向いた水戸さんが、瞳を輝かせて振り向きます。もはやその目には、魔王を値踏みする向きはございません。
「ゴーディスヴェインさん凄いですよ、この量の洗濯、あっという間に終わらせてくれましたから!」
「は、はぁ……」
「魔法で!」
「は?」
何度も頷くマネージャー達の目からも、もう恐怖も敵意も感じられず――それはいいけど何があった、という顔の跡部様の前で、魔王は誇らしげに胸を張っておりました。