第1章 日常
「はぁ……」
「なんだよそのため息は!」
朔馬の話が終わると、翔はため息をついた。これ見よがしにつかれたそれに、朔馬が食ってかかる。
「だってそんなことある訳ないだろ?」
「実際あるんだよ!」
「どうだかな」
翔は現実を愛する現実主義者(リアリスト)だ。故に、朔馬の話がどうも信じられないらしい。
「んでもまぁ、札束抱えてたんだからいいものなのかもしれないな。e-gameのeはenjoyのeだったりして」
龍がいちごミルクを飲みながらこちらを見て言った。実はこの彼、ものすごく甘党なのである。この前3人でカフェに言った時もコーヒーにこれでもかと砂糖を入れていた。
さて脱線したが、e-gameの存在が世に知れてからは、それはそれは良いものだと祭り上げられた。否、正しくは若者達が祭り上げている、と言うべきか。
実際問題帰ってきた少年は未だ精神病棟に入院している。それに、帰ってきた当時は血だらけでお札を抱えていたと言うのだから、何か事件に巻き込まれたのではないか、もしくは何か事件を起こしたのか……。いずれの可能性も考えられるが、如何せん神隠し、と言うのが腑に落ちない。
その少年もe-game、としか口にしないのだから余程のことがあったと考えるのが易い。大人達は自分の子どもが巻き込まれるのではないか、と日々心配しているのだが、その心配の元である子ども、つまり若者達はそんな大人達の気持ちを露知らず、自分もお金持ちになりたいなどと騒ぎ立てているのだ。
キーンコーンカーンコーン。
「あ、鳴った」
翔たち3人はとりあえず席に座り、次の授業の準備をした。
このときの彼らは知らなかった。e-gameの恐ろしさを。e-gameに巻き込まれるという意味を_____。