第23章 未来の選択【一松END】
「別にいいよ…確かに血はなんかすごいけど、見た目ほど深い傷じゃないし。それより絵菜は、どこも怪我してない?」
「わっ、私は…一松くんが、庇ってくれたから…そんな、私のことより、一松くんの傷が…!」
「…平気だって」
「平気なわけない!救急車がだめならせめて病院に
「絵菜」
彼に名前を呼ばれた、瞬間。
…唇を、優しく塞がれた。
「…!!」
あまりにも一瞬のことで、彼にキスされたと認識できた時には、もう唇は離れていた。
「…あいつ、怯えてる。あまり大声出さないほうがいい」
「…!え…」
彼の視線の先には、さっき野良犬に襲われそうになっていた、あの猫がいた。
首輪をしている。どうやら飼い猫なのだろう。体を小刻みに震わせて、私たちを見上げている。
「首輪に飼い主の名前や住所が書いてあるかもしれない。絵菜はそいつを連れて飼い主の元に送り届けてやってくれる?」
「そ、それはもちろん…でも一松くんが
「一人でも病院くらい行けるから心配しないで。…あー、ハンカチ持ってない?このまま街うろつくと騒がれるから」
「あ、あるよ!待ってね、今…!」
私はポケットからハンカチを取り出すと、なるべく血が目立たないように彼の腕に巻き付ける。
「…ん、ありがと。じゃ、その猫のこと、よろしく」
「あ…っ!」
手をひらひらと振りながら、一松くんは路地裏を後にする。
追いかけたい衝動に駆られたけれど、この猫を放っておくわけにはいかない。
「…おいで。もう怖くないよ」
猫に手を差し伸べると、警戒しながらもゆっくりと寄ってきた。
優しく体を抱き上げて、首輪を確認する。幸いにも、飼い主のものらしき電話番号が記されていた。
よかった…これでこの子はもう大丈夫。
でも…
「…っぐす…一松くん…っ」
「にゃー…」
救われた、小さな命。そのぬくもりを抱きしめながら、私は路地裏でただ一人、彼を傷付けてしまった悲しみに涙した…