第18章 運命の人
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とある路地裏。野良猫に餌をやっていた一松は、背後に何者かの気配を察知する。
「…誰?」
「あ、気付いちゃった?驚かせようと思ったのにー」
この明るい声の主は、知ってる中では一人しかいない。
「…十四松か」
「うん、僕だよ!」
「なんか用?」
猫を眺めながら、一松は問う。
「うん、えっとね、一松兄さんに聞きたいことがあって来たんだ!」
「…何」
「一松兄さんは、絵菜のこと、好き?」
十四松のセリフに、びくっと肩を震わせる一松。十四松は笑顔のまま、彼を見下ろしている。
「……十四松は?」
「僕?大好きだよ」
「……そ」
「一松兄さんは?」
「……好きか嫌いかで言ったら、好きだけど」
「じゃあ、好きか大好きかで言ったら?」
「……お前、俺に何言わせたいわけ?」
「いいからいいから」
しばらくの間を置いて、一松はぼそっと呟く。
「…………お前と、おんなじ」
「大好き?」
「…ん」
「そっかぁー」
相変わらずの能天気な声に、一松はチッと舌打ちする。そしてようやく、振り向いて十四松に顔を向けた。
「だから、何」
「ううん、一松兄さんの気持ちが知れて、よかったなぁーって」
「……あっそ。それだけ?」
十四松は首を傾げる。どうやら本当にただそれだけのことだったらしい。
一松は立ち上がって、十四松の元に歩み寄る。
「…帰ろ。もうすぐ夕飯だし」
そのまま通り過ぎようとした時、
「一松兄さん」
十四松に名前を呼ばれ、一松は歩みを止める。
「僕、本気だよ。でも、ライバルになるのは嫌なんだ。だから、これからも仲良くしてくれる?」
「……好きになった相手が同じだからって、兄弟のこと嫌いになるわけないだろ。くだらないこと言ってないで、早く帰るぞ」
その言葉に、十四松は嬉しそうに瞳を輝かせ、再び歩き始めた一松を追って走り出した。