第17章 甘い時間と僕の願い【トド松】
それからは二人で他愛ない話をしたり、トランプやボードゲームをしたりしてまったりとした時間を過ごし…
日が沈む夕暮れ時。私は松野家の玄関でトド松くんに別れの挨拶をする。
「楽しかったよ!トド松くん。カレー、夜にまたみんなと食べてね」
「うん…でもほんとにいいの?送らなくて」
「気持ちだけありがたく受け取るね。帰りにスーパーにも寄りたいから」
「そっか…」
「じゃあ、今日は本当にありがとう。…話、聞いてくれて嬉しかった。また会おうね」
彼に背を向ける。戸を開けて外に出ようとした、その時。
「…っ絵菜ちゃん!」
「え…っ!」
ぎゅっ、と。
トド松くんに、後ろから抱き締められた。
「と…トド松く…
「ねぇ…絵菜ちゃん。答えられないなら、答えなくてもいいから…最後に、これだけ聞かせて?
…君はもう一度、恋をしてみたいと思う?」
「っ」
息が、詰まる。
恋…私がこの一年間、ずっと避けてきたもの。感情。
あんな思いは二度としたくない。もちろん世の中にはいろんな人がいる。でも、一度植え付けられたトラウマは、なかなか消えてはくれなかった。
くれなかった…はずなのに。
それが今となっては…どうだろう。
私は…
「…ごめん。答えられないならいいんだ。君の傷が癒えるまで、僕は待ってるから…」
待ってる…?何を…?
彼のぬくもりが離れていく。名残惜しさから振り向くと、トド松くんは笑顔のようなそうじゃないような、なんともいえない表情をしていた。
「またね、絵菜ちゃん。…仕事、頑張って。応援してるよ」
そう言って微笑むトド松くんは、なんだか少し儚く見えて。
私はそれ以上言葉を紡ぐことができずに、家を後にした―。