第1章 卒業の日
あの日からずっと、私はコート上の貴方を見続けていたのかもしれない。
【卒業の日】
3月1日、快晴。
満開の桜の候...というにはまだまだ、宮城県にあるこの烏野高校には程遠くて。
それでも、このハレの門出には相応しい日だった。
賞状筒を握りしめ、一人今日で最後になるこの馴染みある校舎を眺めていると、
「名前先輩」
背後から声がかかった。
振り返ると、心象が表れているのだろうか。哀しい程に青い、と思わせる広い空を背景に見慣れた顔の後輩がそこに立っていた。
「卒業おめでとうございます」
『ありがとう、飛雄ちゃん』
おめでとう、と言われただけなのにあの飛雄ちゃんの口からお祝いの言葉が出てきたと思うと、ホロリと涙が溢れそうになる。
「!? 先輩泣いてるんすか!?」
『飛雄ちゃん、成長したな〜と思って』
指で目に浮かんだ涙を掬うと飛雄ちゃんがなにやら微妙そうな表情を浮かべていた。
「...先輩、今日一緒に帰っていいすか」
今まで、バレー部のみんなで一緒に帰ることは多々あったが、思い返せば飛雄ちゃんから直接一緒に帰ってもいいかなどと聞かれたことはなかったかもしれない。いや、別に付き合っているわけじゃないし、当たり前なのだけれど。
『うん、いいよ。バレー部のお別れ会、今からするんでしょ?それが終わったら一緒に帰ろっか』
かわいい後輩からのお誘い、断れるわけがない。
『今日で、最後だしね』
「...うす」