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青春メモリアル【短編集】

第14章 門出の日@黛千尋




黛がそう気付いた時、突然美心が彼を振り返った。
梳かしかけの髪が櫛からするすると抜けてゆく。



「ごめんなさい……不可抗力ですっ」


次の瞬間、美心が黛の中に飛び込んできた。

黛は驚倒したが、突き離そうとは思わなかったのか。
寧ろ、美心の髪を優しく梳いた。

心地よい愛撫に、美心はギュッと目を瞑った。


夢かと思ってしまうくらい、幸せ過ぎだ…。



そんな美心を知ってか知らずか、黛は言葉を紡ぐ。



「…どうやら俺は、美心の事が好きみたいだな」














「っ…名前!」


「は?」





美心はパッと顔を上げ、ただ一言呟いた。


「黛さんに、初めて呼ばれました。
苗字でも呼ばれなかったのに…」


「そうだっけか?悪い、苗字覚えてなくて」


「何ですか、それ…」


嬉しいような悲しいような……とブツブツ呟く美心に、黛はまたため息をつく。


「注目すんのはそこじゃねえだろ」


ぽすっ


美心は再び黛の身体に顔を埋(うず)めた。

その一瞬に見えた彼女の頬は、綺麗な薔薇色に染まっていた。




「いつからか、なんて分かりません。
でも、あなたが好きです…千尋さん」



きゅん


心臓に緩い拘束を施されたような、甘い苦しみ。




これが“ときめき”。
これが、“恋”…。




黛も頬を染め、彼女の火照ったそこに触れた。


「言ってくれるじゃねえか…」

「お返しですよー、だ」


美心は、ベッ、と舌を出して悪戯っぽく笑った。



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