第14章 門出の日@黛千尋
黛はその挑発に眉を顰めたが、すぐに口角を上げ、手を頭へと移動させた。
「…また会えるな」
想いが通じていなくとも、卒業したからといって会えなくなる訳ではない。
街のどこかで偶然会う可能性も有る。約束をして落ち合う事も不可能ではない。
だがそれは、物理的な問題でだ。
そこに謙虚で消極的な感情が関わるのが常である。
特に想い人であれば、用もないのに会おうとは言えない。また会うには口実が必要だった。
だが、それを作る必要はもう無い。
恋人達には、自由に愛を深める権利があるのだから。
「…はい」
美心は静かに微笑み、目を閉じた。
黛はまた彼女の髪を梳いてから、頬を包む手でゆっくりと彼女を引き寄せた。
「よろしく、美心」
耳許で囁かれた低い挨拶。それは美心の左耳から脳内へと流れ込む。
恋の味は唇へと広がり、2人の世界へと導いていった。