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青春メモリアル【短編集】

第14章 門出の日@黛千尋




——あの頃はまだ可愛げがあったのにな……なんて思い返しながら、黛は髪を2つの束に分けた。今日はツインテールだ。

あの日、2人でラノベについて語った。その時、彼女の好きなキャラがツインテールだと知り、それ以来その髪型にする事が多い。

自分では結ばないのかと訊くと、『寝癖は全然直らないからイライラしますし、不器用なのでそれをカバーする事も出来ません』と言われた。
なら俺が結ぶ、と言ったあの日から、こうして人の少ない屋上で落ち合ってヘアメイクをするのが日課となっている。




「ほらよ」

「わーい!ありがとうございます」

仕上げにポンポンと頭を撫でてから、黛は読みかけの本を手に取った。

一方、美心は黙って空を見上げている。黛は読書の傍らでそんな美心を見て不思議に思った。
日課が終われば、彼女もすぐに読書に戻るのだが…。

「…どうした?読まねぇのか?」

「いえ。…黛さんが卒業しちゃったら、こうして髪を結んでもらう事も無くなっちゃうんだなぁ、って思いまして」


そうか、卒業したら俺達はもう…。


美心は黛の2つ下——赤司と同い年だ。今までにここにあった日数が1年分にも満たない事に気づき、黛は驚いた。もうずっと一緒にいた気がしてならなかった。それ程に、2人の日常に馴染んでいたのである。



『もっと長く一緒にいたい。』

この想いは、何の感情から来ているのか…。


この時の黛には見当もつかなかった。



「…しみじみするなんて、まだ早いですよね」

「そうだな…」


答えはまだ、見つかりそうになかった。



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