第14章 門出の日@黛千尋
発端は、まだまだ暖かいと言えた5月に遡る。
黛がいつも通り屋上で読書をしていると、ギイ…と扉の開く音がした。
ここへ人が来るのは珍しい。普段は黛くらいしかいないので、誰が来るのか気になった。読書の邪魔をされたら嫌なのだ。
扉の方へ目を遣ると、入ってきたのは1年の女子だった。
しかも、本を手にしている。
目的が同じだと分かり、少なくとも黛はホッとした。ここで騒がれては、折角見つけた平和な場所が壊されてしまう。これがもしリア充であったら、自分は2度と屋上へは来ないだろう、と思う程だった。
…そんな事を考えている間、無意識に黛はその女生徒を見つめたままだった。
視線を感じた彼女は、黛を見つけてビクッと肩を揺らした。黛は影が薄い。完全に1人だと思っていたその女生徒は、黛の存在に気がつかなかったのである。
だが驚いたのも束の間、今度は興味深げに「こんにちは…」と挨拶をしてきた。
挨拶くらいは返さねば、と思いを「こんにちは」と返すと、彼女は「それ……ラノベですか?」と、少々食いつき気味に話しかけてきた。
座っていた黛には、位置的に彼女の手許の物が目の前に見える事になる。
それをよく見ると、彼女が手にしていたのはラノベだった。
「まあ。…もしかして、ラノベ好き?」
「はいっ!大好きです!」
見上げると、彼女は嬉しそうにそう言った。
その時の印象が、『髪がボサボサのラノベ好き』だった。
櫛もゴムもなかったが、黛はそのボサボサ髪を見ていられなかった。
サラ…
「⁉︎あのっ、」
「ちょっと待て。マシにしてやる」
美心は少し顔を赤らめ、大人しく髪を梳かれる事にした。
これが、黛と美心の日課の始まりである。