第8章 ドライヤー@赤葦京治
ブオオォ…
好きな人が自分の後ろに立ち、更に自分の髪に触れているのを鏡で見た美心は、赤面せずにはいられなかった。
赤葦くんの手が、私の髪に…!
あぁ、いっそ髪に成りたい。
「…髪、綺麗ですね」
「そう?ありがとう!
ちょっと茶色いけどねー」
「そうですね」
「昔は真っ黒だったんだけどね。ドライヤーとか紫外線とかに当たると、どうしても変わっちゃうから」
「女性は大変ですね…」
“女性”か…。
美心は、赤葦が自分を女として見てくれている事に少し驚き、嬉しくなった。
あまり関わりのない私を、こんなに紳士的に扱ってくれるだなんて…。
「…嬉しいな」
「何がですか?」
髪の毛がスルスルと櫛を通る。段々乾いてきたようだ。
「…赤葦くん、私なんかには全然興味ないと思ってた。
でも、こうして髪に触れてもらえるっていうのは……ちょっと、自惚れても良いのかな?…」
「…桐谷さん…」
“桐谷さん”
何処かよそよそしいその響きを聞き、美心は恥ずかしくなった。
「あはは、ごめんね変な事言って!」
美心は思わず自嘲的に笑った。顔から火が出るほど恥ずかしい。そんな気持ちがした。
一方、赤葦は美心の言葉に頬を染めた。そして、ドライヤーのスイッチを切った。