第8章 ドライヤー@赤葦京治
呼ばれた美心は、赤葦を見るなり驚いて声を上げた。
「えっ、赤葦くん⁉︎」
美心は「やだ、恥ずかしい!」と慌てて服装を見直すが、赤葦はそれをガン見していた。
「…なんか恥ずかしいな。そんな見ないでよ…」
「すみません。あまりに新鮮でしたので、見惚れていました」
「みとっ⁉︎」
着ていたパーカーの前を腕で隠し、照れくさそうに、だが嬉しそうに、美心は顔を赤らめた。
赤葦は迷う事なく洗面所へ足を踏み入れ、ガラガラと扉を閉めた。
「髪、乾かしてたんですね」
「うん。部屋でもいいんだけど、他のマネも居るし…うるさいかなって思って」
美心は再びドライヤーを手に取り、スイッチを入れようとした。
…だが、それは敵わなかった。
「俺がやりますよ」
赤葦の手に阻まれたからである。
「で、でも、…」
慌てる美心の手には、赤葦の綺麗な手が重ねられている。
そのせいで、心臓の音がバクバクとうるさい。
「さっき焦げくさかったんです。これ以上髪が悪くならないように、俺が乾かします」
「…オネガイシマス」
少々強引な弁明だが、美心は甘える事にした。
焦がすとか…情けないなぁ。
でも、髪乾かしてもらえるなんて、そうそうないよね…?
赤葦の事を考えながら手を動かしていたので、そっちに集中し過ぎたのだろう。
美心は深く反省すると同時に、自分のミスのおかげで赤葦が自分の髪を乾かしてくれる事に感謝したのだった。