第7章 忘年の夜@国見英
ピロリン…
手許のスマホが、可愛らしい音を鳴らして震えた。美心は慣れた手つきでLINEを開くと、『国見英』の個別チャットにメッセージが来ていた。
美心はそのメッセージを開く前に、死んだような目で、スマホを構えた目の前の彼を見つめた。
「…なんでこの距離でLINEするのかな?」
パシャリ
「別にいいじゃん。
あと、今の写真タイムラインに載せとくから」
「ヤメテ」
「美心のスッピン、っと…」
「ヤメテェェェ!!」
国見のスマホをぶん取り、取られた写真を手早く消した。
国見は、はぁ、とため息をつき、操作する右手を掴んだ。
「…な、何?」
「恥じる事ないじゃん。
美心、化粧なんかしなくても充分可愛いんだから」
落ち着いた口調。いつも通りの無表情。
だが昔より明らかに成長した従弟の姿に、美心は固まる。
…よく『可愛い』だとか『綺麗』だとか…そういう類の褒め言葉を言われるのは、及川さんと英くらい。
及川さんにはかなりの頻度で言われてる(笑)し、心から思って行っている訳では無いって分かってるから、適当に流してる。もし本気だったとしても、そんな軽率じゃあ…ね!
でも英は、こうして2人きりの時にしか言わないし、毎回本心から言っているとしか思えない。
例えば、バレー部がオフだったあの日だ。英と一緒に帰っていると、いきなり後ろから及川さんに抱きつかれ、「美心ちゃーん、可愛いー!」と言われた。私は「ハイハイ」と適当に返し、彼の腕を引き剥がした。
すると、英が「及川さん」と鋭い声を出し、私の手を引いて走り出した。そして人目の少ない所に着いたところで、「美心はいつも可愛いよ」と、私に囁いたのだ。
この時も、無表情で力のない目をしていた。でも、そういう時の彼はちよゎっと色気がある気がする。それも含めて……私を褒める彼にドキドキしてしまう。
…でも、英が好きなわけじゃないもん!
美心は口を尖らせ、英にスマホを返した。