第4章 お勉強
「大丈夫?」
「!」
もう一人いる保険医が産休でその分の仕事を代理保険医が来るまで私が補うことになってしまった。
つまり、今までの仕事量が倍になったのだ。
最近仕事を持ち帰ることも多くて体が重く頭痛もする…。
頭を押さえてため息をついていると、デスクの隣に机を置いてお昼休みと放課後、保健室で勉強をしている松野くんに服の裾を引っ張られた。
「ご、ごめん!大丈夫だから…どこか解らないところでもあった?」
「…いや、やっぱ大丈夫」
松野くんの勉強をみるといったくせに自分の仕事だけで精いっぱいだ。
松野くんのノートを見るとあまり進んでいない様子だ。
たぶん私に気を使って質問できずにいるんだろうけど…。
「ここはね、ここの公式を使って……」
仕事がひと段落してから見てあげようと思っていたけれど、少しだけ、少しぐらい大丈夫。と、松野くんに勉強を教えてあげることにした。
「…ん、やってみるわ。ありがとね先生」
「うん、解らないところあったらいつでも話しかけてね」
…今の感じだとあんまり伝わってなかったかな…。
やっぱり保険医の私が教えるだなんて言わなきゃ良かったかも…。
その日も仕事はなんとか締め切りに間に合ったが
時計に目をやれば8時30だった。
「松野くん、遅くなってごめ…寝てる?」
松野くんは机につっぷしてスヤスヤと寝息をたてて眠っていた。ノートをそっと取って見てみるとやっぱりあの問題から進んでいない。
「ごめんね…。」
「ん…」
松野くんは眠たそうな目をこすりながらゆっくりと起き上った。
「松野くん、待たせちゃってごめんね」
「気にしないでいいって。ん」
「…?」
「はい、仕事おつかれさま。」
松野くんは私の手を取りニコっと笑うとそっといちご味の飴を握らせた。私は嬉しくてありがとうと笑顔を返した。
前に松野くんに好きな食べ物を聞かれたときに『いちご』と答えたからいちご味の飴なのだろう。
最初は無茶苦茶で強引でとんでもないかまってちゃんだと思っていたけれど、私の些細な事を気にかけてくれて思っていたよりも優しくて、私に気を使ってくれているということに気がついた。