第1章 勧誘
中学の時、私は目立たない方の人間だった。
かと言って友達がいない訳でもなかった。
それでも、何だかあの女子の固まりとか集団行動とか味方だの敵だのという関係がめんどくさくなって私は結局、高校では大人しく誰とも関わらずに過ごそうと決めていた。
烏野高校1年生の春。
私はそんな重い足を一歩前へと踏み出した。
クラスと番号を確認して足早に歩き出す。
周りの人は元々知り合いなのか、喜びあったりこれから宜しくねなんて言いながらきゃはきゃは笑っている。
『…憂鬱だわ…』
そんな光景を見て私はボソッと一言こぼしてさっさとこの場を去った。
仲良しごっこはもうおしまい。あんな風に仲良くしといて最後は裏切られてどうせ終わりなんだから。
そんなことなら、最初から仲良くなんてしない方が楽だ。
そう思いながらクラスの扉を開けた。
その瞬間私に向けられるたくさんの視線。
咄嗟にこそこそと話し出す女子達。
私はそれを横目で見ながら席へと向かった。
『……』
あぁ、周り中もう集団できてるよ…。
なんて頬杖をつきながら教室を見渡した。
春の風が窓から入り込み、私の長い髪をさらさらと撫でる。
そして瞼がゆっくり閉じかけた時、私の目の前にオレンジの髪が揺れて思わず私はガバッと目を開けた。
『!?』
「あ、悪い!なーんか眠そうな顔してんなーって思って見ちまった!」
突然のことにきょとんとする。
クラスで初めて…いや、この学校に来て初めて声をかけてくれた人だった。
その春風に揺らされた彼の癖っ毛のオレンジ髪がよく目立つ。
そして何より、彼は裏のない太陽のような笑顔で笑いかけてくれていたのだ。
『…誰?…』
私の悪い癖だ、凄く不機嫌そうに聞き返してしまった。
自分でもよく分かってるよ。だけど
「あ悪い!俺は日向翔陽って言うんだ!お前の名前も教えろよな!」
彼は嫌な顔一つせずに名前を教えてくれた。
人懐っこい笑顔は消えることを知らない。
だから私はこの時、そんな明るい笑顔の彼を信用できたんだと思う。
日向翔陽…、彼にぴったりの名前だと思った。
彼が太陽だから私は救われたのかもしれない。
そうじゃないとしても、私は彼を信じたいと思った。
『私は』