第2章 火曜日
「で?要するにテメエら本屋の前で、ゲロまみれでクソ下品な話をしてた訳だな?朝っぱらから」
病室に煙草の煙が蔓延している。
銀時と全蔵が枕を並べる病室でマガジン片手に事情聴取しているのは新撰組副長土方十四郎。煙草のフィルターを噛み潰しながら、二人を見比べて不機嫌な様を隠しもしない。
「・・・ちょっとお巡りさん。アンタ何ぷかぷか吸っちゃってんの?自分がどこにいんのかいまいちわかってねェみてェだから教えてやるけどな、ここ病院。アンタお仕事で怪我人の病室に来てんの。競馬場のパドックで馬眺めてんじゃねんだぞ。人ジロジロ見ながら喫煙ぶっこいてんじゃねえよ」
首にゴツいコルセットを巻いた銀時が怠い顔で毒づく。
土方はマガジンのページをめくって鼻を鳴らした。
「ハ。その方が余っ程有意義だけどな。馬鹿が雁首揃えて唸ってんの見てるよりゃよ」
「・・・何でこのお巡りは先週のマガジンなんか読んでんだ?明日にゃ出んだろ、新しいマガジンが。何かイラッと来んな、おい」
うつ伏せで心持ち尻を上げた格好の全蔵が恨みがましげに洩らす。
土方は短くなった煙草を舌打ちと共に口から離し、目をすがめて全蔵を見やった。
「流石元御庭番衆だな。普通車に跳ねられて痔の悪化ですむか?てか、どうすりゃ痔が悪化すんだよ、交通事故でよ?このバカでさえむち打ちンなってんだぞ?どんだけ丈夫なんだ?尻以外」
「いやいや、尻だけじゃねぇよ。頭もやられちゃってっから、コイツ」
「やかましい。テメエは口出すな」
銀時に凄んだ土方へ、全蔵がギリギリとぎこちなく顔を向けた。
「おい、何だってたかだか接触事故にアンタが出張って来たんだ?農閑期かよ、真撰組?」
「俺たちゃ江戸に土耕しに来たんじゃねえ。農閑期なんかねんだよ。雨の日も風の日も嵐の日もテメエらみてぇなバカ共の為にせっせと働いてンだ。あ?何が見舞いはジャンプで頼むだ?ブッ殺すぞゴラ」
「結局手ぶらで来やがったくせに文句言ってんじゃねえぞ、ああ?このマヨマガ人がよ!」
ケッと斜向かいに空唾を吐いて銀時が、ベットサイドの湯呑みを土方の顔目掛けてシュッと投げた。
「ぬあッ」
反射的にマガジンを顔の前に掲げた土方は、湯呑みから溢れたイチゴ牛乳が愛読書を桃色に染めるのを見て形相を変えた。
「テッテメエ、何て真似しやがる!」