第8章 再びの月曜日
額を押さえた河合が声を振り絞った。
「錦百合の花言葉は変わらぬ愛情。その気持ち、確かに受け取った。私も同じ気持ちだ。一緒になってくれ、綾雁さん」
綾雁の足が全蔵の鼻先でピタッと止まった。
「川合様」
「綾雁さん」
両手を広げた河合に向かって綾雁が歩み寄る。
次の瞬間、ふわっと飛び上がった綾雁の華麗な踵落しが河合の脳天にヒットした。
「もっと早くに仰りやがれ!!!!」
河合がゴンと前のめりに倒れ込む。
「アンタホントに直したいと思ってんのか、自分のそういうとこ」
腹を立てた雀蜂の群れのような速さと手数で襲って来る蹴りを巧みに避けながら、全蔵は笑った。
「直したくとも直し方がわかりませぬ!!!」
「おい、テメエら、尾田先生がいっぞ、あれ、ホラ」
適当な事を言ってあらぬ方向を指差し、銀時らの注意を反らした全蔵が手を伸ばした。
「俺は好きだけどな、こんなアンタ」
攻撃の間隙を掴んで、手を捕らえて引く。
驚く綾雁に逃げる隙を与えず、全蔵は興奮でうっすらと汗ばんだ滑らかな額に口を付けた。
「・・・・・ッ」
綾雁の黒い瞳が驚きに見開いた。
全蔵は覆い隠すように綾雁に被さって後れ毛が乱れる細い首を引き寄せ、すんなりした姿勢のよい体を抱き締める。
「蹴ってもいいけどよ。まあ蹴らずに聞けよ」
全てはほんの束の間の事、全蔵は綾雁から手を離して笑った。
「俺と一緒にいりゃ習字のたんびに顔を洗わなくてすむぞ?どうだ?」
綾雁の鼻の下を拭ってやりながら、穏やかに言う。
綾雁はしばし真顔で全蔵に見入り、やがて優しくクスクスと笑った。
「私、好きで墨をつけている訳ではありません。注意してくれる方がいなければ困ります」
全蔵は綾雁を見下ろして息を吐いた。
「そうだな。アンタにゃそういうヤツの方があってるわ」
河合を見やり、綾雁に視線を戻し、満足そうに頷く。
「河合と京に帰るか?」
「いいえ。私、まだ暫くはここで働かせて頂くつもりです。店長の体調が戻るまで」
「立ち読みお断りか?」
かくしに手を突っ込んで、肩をすくめた全蔵に、綾雁が艶やかな笑顔を見せる。
「さあ、どうでしょうか?どういたしましょう」
全蔵の首に手をかけて背伸びした綾雁が、全蔵の頬にフッと唇を寄せた。