第3章 水曜日
浅蘇芳に紫紺の菖蒲が鮮やかな小袖に襷をかけ、木桶片手に打ち水をする綾雁の姿がある。
繁雑な店の前で、行き交う人の流れを巧みに避けながら、丁寧に水を撒いている。その姿勢のよい美しさに、振り返り、一瞬足を止める老若男女が少なくない。
そんな周りの様子に一切頓着なく、綾雁は丹念に作業を続けている。
その綾雁のすぐ後ろには、本日水曜の目玉、マガジンが山と積まれた平台。
そんな本屋の店先を物陰から眺める三つの人影がある。
土方、全蔵、銀時だ。
「・・・・何だって打ち水なんかしてんだ、あのお姫さんは。マガジンにかかったらどうすんだよ!?」
「・・・・いや、それより何で俺がここにいるんだ?おかしかねえか?おい?尻痛えんだけど、コラ」
「国家権力に退院させられちゃったからねえ。この女嫌いのマヨネーズバカ、一人じゃ淋しい熱帯魚なんだよ」
「ああ?食えねえ魚なんかどうだっていいわ。勝手に淋しがってろ。俺はジャンプ買って帰るぞ」
「バッカ、オメエ水曜だぞ?ジャンプなんか残ってるわけねえじゃん。まぁ俺ァうちに帰りゃ可愛い部下の買って来たジャンプが待っててくれっけど?何かごめんねぇ、ニンニン」
「銀時くん。今日は君のうちで遊ぼう。君ンちのお母さんの隕石みたいなホットケーキと泥水みたいなココアをご馳走してくれよ」
「おいおい、何だお前、ジャンプたかりにくる気だな?分かり易すぎだっての。全然忍んでないよ、この忍の痔!」
「へぇ、旦那ンちのオカンもうちのクソ副長ンとこのオカン並みに料理上手なんですねィ?あらァすげェですぜ?食ったら身体中の毛穴ってェ毛穴がおっぴろがって血ィ噴きやすから」
「そ、そそそそ総悟ぉぉ!?」
三人の頭越しにひょっこり顔を出した男に、土方が声を上げた。
真選組一番隊隊長、沖田総悟が幼さの残る紅顔で飄々と本屋の店先を眺める。
「いやァ、鬼の副長が髭の美人にビビってバカ二人無理くり退院させた挙げ句お供にしちまったってなホントだったんスねィ?しょんべんチビれるくれェ微笑ましい話だァ。こりゃ今月の広報のトップ記事になりまさァ」
「テメエどっから聞き付けやがった!?」
「どっからも何も、病院でゴリラとダメなグラさんが盛大に文句ぶちまけてましたぜ?置いてけ堀食らったって、ホントバカばっかですよ、アンタらは」