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【赤髪の白雪姫】きみの瞳に恋をする

第4章 毒薬の功名※


―――結局、叩かれた。

頬を膨らませ口を尖らせてぷんぷんと怒る彼女はまるで子供のようだ。

ここ最近はずっと晒を巻いていたから油断した。だとか、なんか開放感があるなとは思ってたけども、だとか、でも多分お医者さんなのかも?治療してもらうときには診てもらう訳だし…。などと言い訳のような独りごとを唱えていた。

百面相だ。

「因みに俺は医者じゃないよ。怪我で魘されてるお姫様に、手を繋がれて一晩過ごしただけの、ただの通りすがり。」

『ぐぅ…。』

菫色がうるうると揺らいでいる。

すっかり毒の痺れからは大分解放されたみたいであったが、傷は痛む様子だった。一晩で治るようなものじゃないことは、一目瞭然だ。


ふぅーっと息を吐いたことが空気を伝って届く。

彼女は女将さんがお店に来るまでに、ウェイターの昨日までのトーマと同じ姿になりたいというので、彼女の荷物からでてきた大量の晒を巻くのを手伝う羽目になった。

(余計な心配かけたくない…か…。)

指先に、まるで溶けてしまいそうなくらい柔らかく滑らかな肌を感じて、おのずと心拍数が上がった。綺麗な双丘を苦しそうなくらいにぎゅっと押しつぶせば、彼女は満足そうだった。


そして、身なりを整えれば、昨日と同じ姿に戻った。一緒に縛り上げた強盗の様子を見に行き、ぐったりした彼らの姿を確認すると、彼女はその強盗たちの始末を俺に託した。

『お兄さん、こいつら捕まえたっていって、兵士さんに渡しておいてもらえない?』

「いいけど、伸したのは、お嬢さんでしょ?」

『縛ってくれたのは、お兄さんでしょう。』

この格好の時にお嬢さんって呼ばないでよ。と眉をひそめてこちらを向く。
そのあられもない様を見てしまったということもあるだろうが、もはや、ただの、ちょっとボーイッシュな恰好をしている女の子にしか見えない。

『あ、お兄さん、名前教えてよ。今度お礼する。』

“オビ”と答えるか少し悩んで、

次にまた会う機会などないだろうと、

「ナナキ」

と答えた。

「お嬢さんこそ、名前は?」

と聞き返せば、

少し驚いたような顔をして、

『トーマ』

知ってるでしょ?と口元に孤を描いた。


『じゃあ、またね。』

彼女は左手をひらりと振って、女将さんが到着したらしい店へゆっくりと戻っていった。
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