第4章 毒薬の功名※
『うん、みとれてた。』
素直に返事をしたら、
「え…ちょっ…。」
彼は目を丸くして固まった。それから、少し間を置くと更に赤面して、それ、反則。と、でこぴんをお見舞いされた。
毒針が抜かれた時の痛みで気を失ってから、実は、それほど時間を要さずに、意識だけはぼんやりと戻っていた。
私の傷口から、献身的に毒を吸い出しているのが彼だと気付いて、
(何故そんなに献身的に施してくれるんだろう。)
と不思議に思う一方で、ちゅぅと吸いつかれる温かさに、体の芯からふつふつと湧き上がる、なんともいえない感覚があった。
晒が肩の傷をしっかりと覆いながらきつめに巻かれると、ズキズキとした痛みが優しさに包まれたように穏やかなものになった気がした。
体温のある布に包まれて、気付けば眠りについていた。
『あ、これ、巻いてくれてありがとうね。』
目の醒めたトーマという女は甚く冷静だった。
身体を横たえたまま、肩に巻かれた、彼女の右肩の晒を指さすと、お兄さん、やっぱりいい人だね。と口元に笑みをつくり、礼を言った。
『それに、これもお返しする。』
「ぇ…うわぁっ!!」
徐に彼女が覆いを差し出してきたので、思わず悲鳴を上げてしまった。
もし、朝目が覚めて、目の前に知らない半裸の男がいたら、事情はどうあれ、平手打ちの一つや二つ飛んできてもおかしくないだろう。自分が、もし女だったら、そうする気がする。
ところが、彼女はまったく動揺が見られなかった。
澄んだスミレ色のそれがまっすぐとこちらへ向けられて、俺の半裸をじっくりと眺める始末だ。
自分の服が裂かれていることを知ってか知らずか、自分の上に乗っていた俺の服を徐にはぎとり、はいどうぞと渡してきた。
昇ったばかりの太陽の光が小さな窓から注いでいて、昨晩とは違った明るさの中で、彼女の四肢が白く透明に浮き上がる。
破れて肌蹴た布切れには、変色した赤い斑点のついていて、そして、彼女の輪郭を隠す役割をまったく果たしていなかった。滑らかで白く柔らかな膨らみとその頂の赤い蕾が美しくて、目を奪われた。
急速に顔に熱が集まってくるのを感じて、すぐに目を逸らした。
のほほんと彼女は続ける。
『ちゃんと自分の服持ってるから大丈夫。』
(…そういう問題じゃない!!)