第4章 毒薬の功名※
毒針を抜いたが一向に血がでてこない。
先ほどの少年の口ぶりからすると、彼女には致死量かそれ以上が使われている可能性もある。できるだけ毒を除いたほうがいいだろう。
毒薬にさほど詳しくはないが、それくらいのことは想像がついた。
「お嬢さん、ちょっと失礼するよ」
すでに気を失ったトーマに声をかけて、彼女の短刀を拝借する。短刀を鞘から抜き取り、ハイネックのカットソーを切り開いた。
(なんだ、これ。)
そこには晒がぐるぐるにまかれた体躯があった。晒の下から丸みを帯びた双丘が苦しそうに覗いており、女性であることを認識させられる。
身体の奥が疼くような感覚には気づかないふりをして、彼女の右肩から布をはぎ取った。露わになった白い肌に似つかわしくない、先ほどの毒矢による切傷部と毒針の刺傷部がそこにはあった。そして滲んだ血液は、毒と血小板と混ざり、固まりつつあった。
見ればこの傷以外にも、あちこちに、刀傷のようなものが無数に散らばっている。この薄暗い部屋の中でもはっきりとわかる一際大きな傷跡が目に入った。
問い詰めたいことが次々とあるが、今は気を失っているようだし、毒を除くほうが先だ。毒の混ざった血を体外に出さないと。
厨房に残っていた湯を使ってぬるま湯を桶に作り、彼女の傷口を洗い流せば、肩の切り傷からは血の塊が外れ、さらさらとした赤が滲んできた。
(毒針の刺し傷は血が固まったままか…。)
強めの酒を口に含み、水ですすいだ後、彼女の肩に噛みつくように口付けた。針の刺さっていた部分を口で多い、ちゅぅっと思いっきり吸い上げる。
『っぁあああ…っっ。』
気を失っていたはずの彼女から、悲鳴が上がった。
神経に近いところが傷ついているらしい。
思いっきり傷口をすえば、口の中に鉄の味が広がり、ふいに血の塊がころんと飛び込んできたのが分かった。
それを吐き出し、再度よく口を漱ぐ。
針の刺さった部分から、赤い鮮血が湧き出てきた。
綺麗なビー玉のような血玉を作っていた。
それから、同じように数回血を吸い出した。
そのたびに、彼女から吐息に雑じって苦しそうで艶やかな声が漏れた。
『んっっ…。ぁっ、あぁ…。』
できればもっと別な時にこの声を聴きたかった。
不謹慎とはわかっていたが、心底、そう思った。